正しく、待望であった1stアルバム「pessim」の衝戟から二年、最重要ビートメイカーRamzaが新たなストーリーを紡ぐ。
前作にあたる『pessim』(AUN Mute / 2017)は自らの精神を独房に幽閉して、その部屋の中、ひとつだけ付いた小さな窓からの景色を頼りにこの世の全てを見通そうとするような、謂わば時空間を圧縮した密室音楽であった。当作のリリース後、出獄した作家に訪れたtour lifeと呼ぶに相応しいライブスケジュールの中でこの密室音楽は日本全国へ、或はインターネットを通じて世界へ解放されることとなった。今週末と来週末が癒着してしまった日々の中で、いつしか小さな窓は薄暗い部屋の明り取りではなく車窓に姿を変え、景色を高速で置き去って行く。この車中にあって、安堵や歓喜を、失意や悔恨を、それらよりもほんの少し多い疲労と共に重たい身体に溶け込ませるために必要となった更に深いmeditationが作り出したのが本作である。各地の馴染みと手を合わせる時、LOCOSのメシにありつく時、通りで不意にクラクションが鳴る時、エアコンは獣臭い風を吐き出し、ローボックスからその夜最初のキックが刻まれ、ギャランティーが現物で支給される。その時に於いて、事象は”断片化”する。作家が手に入れたのはこのような”sample”だったのである。記憶というには覚束なく、また、実感するには鮮明過ぎるそれらの時の中で、断片化されたsampleを繋ぎ合わせて自らの存在もろとも編み込む様な、ある種の工芸的な手つきで作られた、いま目の前にあるコレ、としか呼べないコレのことをK-TOWNのセンスは「世界」ではなく『sabo』と呼んだ。濃紺の深夜に捧げられた青白い祈りの中で、懊悩から漏れだす声はいつしか歌に変わり、低音はbassから解放される。ここでsoulやjazzから引用されるのは音響や文脈だけではなく、ストーリーそのものである。それは、なにも特殊なことはなく、ありふれてさえいるのに、音楽に乗っかるとたちまち眩いまでの光度のなかに全てを飲み込んでしまう例のあのストーリーだ。それを手にした音楽家がここにもいるのである。曲中高らかに「new story has going on」という宣言がなされる。そう、これは新たなる物語、その序章。そしてそれは既に始まっている。歴史は積み重ねられて、いくつの夜があけても、引き続き上っ面しか計れない物差しを圧し折るのが此処のgameだ。杓子定規を「規格外」という言葉ごと嘲笑う2019年AUN Muteの、これが最新の挑発。
01. HUSH NOW
02. FOOLISH
03. SHILOH
04. LUV
05. DREAM
06. BLUE