朝日が昇っているのか、わたしたちが降(くだ)っているのか、そんなことも考えだすイヴェントの朝方。
賢い女性たちはとうに帰路に着いた。外では老人たちが動きだし、大通りには車もちらちらと走りはじめている。
今夜もイヴェント最後のDJはSEROW。ぐっと固めなプレイでMNMR随一の安定感を備え、入団当初から抑えを任されている。
ステージの横からキャップを脱ぎ正面のターンテーブルに一礼するとステージ下に這い回るコードを踏まぬよう右足からステージに駆け上がる。
フロアにも一礼し、プレイ中のDJに声を掛け、ここでキャップを被る。これが毎度お決まりのルーティーンだ。
前作のミックスCD"BACK TO SQUARE ONE"でも顕著だが彼のプレイの特徴は劇場型ではなく凪である。
”アップダウンをつけたくないんす”とは彼の弁、ひとたびDJをはじめると一定のリズムと適度な温度感を保ちその場の空間をまさに支配する。
そしてフロアにいる我々には支配されていることなぞ考えることも放棄させ、心地よさのみを感じさせてしまうという。
そこに身震いするような恐ろしさがある。
異形のヒップホップサイボーグに「H-I-P-H-O-P」とプログラミングし、モンスターを作り出した張本人MASS-HOLEにはDJ SEROWとの長い付き合いという耐性があり、わたしにこう助言する"メロウは沼です。入ったら二度と抜けられない。はやくみんなを帰さないと"
いち早く空間の異変に気づいたが、トキすでに遅し、トロトロと侵食しステップを制御するリズム。思考を浮遊させ筋肉を弛緩させるメロディ。
アヘン窟の様になったフロアではすべての苦しみや厄介な日常を忘れ、みながゆらゆらと揺れている。
"ダメだダメだ終わり!"
焦るMASS-HOLEを尻目にDJ SEROWは呟いた
”JUST ONE MORE SONG”。