GRINGOOSEはいつも物語を教えてくれる。「DJは街の話を知らないといけない。」そんな言葉を聞いた少し前に、街の話を知らないDJが最後かけたレコードの余韻を、本人はバックヤードでの怒声として聞く。「全ては愛」だということ、それはとても広くて的を得ている。レコードの話。音楽の話。それは束の間の何かじゃなくて、EVERYDAYの話。どんなMELLOWにも、どんなSTRUGGLEにも、そこにいて欲しい曲がある。「短編は苦痛を癒してくれるんだよ。死ぬかもしれないなあというとき、だれが長い話をする?そのとき必要なのは短編だよ、短い話だよ。いよいよ死ぬっぞっていうとき人間は自分に向かって短い話をするものさ。長編はお呼びではないの。」これはジョン・チーヴァーっていう巨匠が言った言葉らしくて、最初にこの言葉を見た時に、少し納得して、音楽だったら1曲がそういう感じかなって思って、少しうなづいたんだけど。あまり機嫌が良くない時に、風呂に浸かりながら、読んだ本にこの言葉が出た時の状況があって、それはこの巨匠の愚痴だったって知ってさ。まあ、この巨匠の短編まだ読んでないんだけど。なんとも言えない気分で戻った部屋の、瓶も缶も、本も、タバコもなんか全部投げ出してるような机の上に、昨日も聴いてたGRINGOOSEのMIX CDがむき出しで置いてあって、つきっぱなしのプレイヤーを雑に押して、トレイを大切に閉めて。ヴォリュームを少し上げて。COFFEE飲むかBEER飲むか考えながら。まずはライターを探そうと思って、タバコをくわえたまま、火をつけるまでに2、3曲が流れて。その時に、「まあ、死ぬ時に聴きたいって思う曲は1曲な気はするけど、その曲が特別にかかる瞬間を知ってたら、次に行くまで死ねないだろな。」って何となく思って。それが事実だって、根拠なんて何もない確信に、曲が続く度に変わっていく。さっきまで、文章で読んだ死と、くだらないことを考えてたはずが、右手にも左手にも嗜好品を持って上機嫌だ。流れるストーリーは少し悲しくても、続きがあることを教えてくれる。誰かに大切に編みこまれた物語は続いていく。少しの空白を置いても続いていく空間がここには存在している。何かのタイミングでこのMIXに入ってる曲が流れたら、最初まで戻してもらおう。どんなに急ぎでも早回しは無しで。最後まで聴かせてもらおう。「LIFE GOES ON」なんてつぶやきながら、いつものように歩いてる。ぼやけた視界に見えるアバウトではない物語。14篇と1篇の。
text by COTTON DOPE